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漫画の話です。

絵心を身につけるために「絵心」を解釈しなおしてみようという話

体系的に絵の勉強をしたことのない自分が、絵心のある人間とない人間の違いを語ってみる話 - ポンコツ山田.com
デフォルメのための要素の捨象・調整・再構成、そしてそこから生まれるゴールをイメージできているかという話 - ポンコツ山田.com
イラストに関するお話三部作の、ひとまず完結編。
今までの記事の中で「絵心」と言う言葉を無反省に使ってきましたが、意外とつかみ所のないこの言葉。絵心があるというのは、いったいどういう状態を指すのでしょうか。
単純に絵が描けること?でも、それだけではなんだかよくわかりません。それはどのくらいのレベルから「絵心がある」と名乗っていいのか。主観的な話でいいのか、客観的な基準があるのか。
「絵を描く」という行為はそもそもどんなものなのかということを考えながら、「絵心」という言葉の再解釈をしてみたいと思います。


Yahoo辞書での「絵心」の意味は

1 絵をかく心得や趣味。また、絵を理解する能力。「―がある」
2 絵をかきたい気持ち。「―が動く」

とあります。
これはこれで実に一般的な意味合いなのですが、その分具体性に乏しく、「絵心とはこういうものならば、それを身につけるためにどうすればいいのか」という問いに役立ちません。
ということで、前回までの記事も含めて今まで書いてきたことを勘案して、私の考える「絵心」を定義づけすれば、「描きたいものをイメージし、それをイメージどおりに描きだせる能力」と言えます。
ここで要求される能力は二段階で存在していて、まず描きたいものをイメージする能力(以下、「イメージ力」と呼びます)、そしてそれを実際に描きだす能力(以下、「描写力」と呼びます)です。
私で言えば、デフォルメ絵を描けないことで端的に表されているように、まずイメージ力が欠如しています。何をどう描きたいかでつまずいてしまうのです。元の絵をどういう風にデフォルメしてやろうかというイメージが湧かないのです。
風景画や静物画など、見たものをそのままに描きだすタイプの絵でもイメージ力の欠如は如何なく発揮されます。
見たものをそのままに描きだすと言っても、このタイプの絵も三次元のものを二次元に変換する作業を伴う以上、見たものそのままが絵になるわけではありません。二次元上で立体を立体らしく見せるには、相応のやり方があるのです。
イメージ力のある人間ならば、風景なり静物なりを見てイメージした時に、そのイメージが既に立体的な二次元となっています(たぶん)。対象物を「絵」らしい状態にイメージしているということです。
イメージ力のない私は、風景や静物を見てもそのイメージはただの写真のようなものであり、いわば「二次元となっただけの三次元」(上の言葉と対照すれば、「絵」らしくないイメージ)です。これがイメージ力のある人間の「立体的な二次元」すなわち「三次元的な二次元」と実に対比的なのです。モデルの存在しないイラストなどでも、モデルがなくとも脳内で描くべきものをイメージするという点では同じですね。
しかし、模写になるとまた話は違ってきます。
模写に要求される能力は、「既に描かれたもの(すなわち「絵」の状態になったもの)を描かれたままに描くこと」です。模倣です。そこには描くべきイメージは、これ以上ない形で現前しています。描かれるべき二次元が目の前に存在しているのです。
すなわち、デフォルメ絵の模写くらいならばイメージ力がなくとも描写力のみで描けるのです。もちろん人を唸らせるほどの高度な模写はそれだけではダメですし、描写力そのものも高度な次元で要求されます。
ですが、私はデフォルメ絵(具体的なキャラクターだけでなく、例えば「老人」などのような抽象的なモチーフでも)を描けと言われると絶句してしまいます。実際、友人に「試しにカエルのデフォルメ絵を描いてみろ」と言われ、それこそ鏡を前にしたガマガエルよろしく脂汗が浮かんできました。それくらいイメージ力がありません。それに比べれば、描写力のみで済む模写(それも単純なデフォルメ絵)ならば、なんとか描くことが出来るのです。
私とは逆に、イメージ力はあるけど描写力はない(まあ私に描写力があるわけではありませんが。自分のイメージ力に比べればまだ描写力はある方、ということで)という人もいるでしょう。出来上がった絵を見て「なんでこんな絵になっちゃうんだろう」と首を傾げてしまう人は、少なからず存在しているはずです。


「絵心」がある人とは、この二つの能力を両方兼ね備えている人だと思います。
このどちらが欠けても「絵心がある」とは判断されません。イメージしたものがどれだけ立派でも、形になったものがへちゃむくれではどうにもならないし、絵の態をなしていないものをどれだけ描きだしたところで、それは絵っぽいなにかでしかありません。
イメージ力にしろ描写力にしろ客観的な指標で表すことは難しく(特に前者)、また同程度のレベルのクラスタ内では、作品の良し悪しよりも受け手の嗜好に評価が左右されやすかったりもしますので、結局のところ「絵心」を客観的且つ厳密に比較することの出来る定義ではないのですが、こういう風に考えてみることで、絵心がない、でも絵を描けるようになりたい、(昔から使っている表現ですがですが)「絵が描けたい」と思っている人のステップアップに少しでもつながったらいいな、と思います。
自分は何をどう描けばいいかのイメージがないのか、それとも線を上手く引く技術がないのか、そこらへんを分けて考えてみると自分の絵心の整理が出来る。かも。


しかし、絵を描くってのは今までしてこなかったものな分だけ、普段と違う脳の場所を使うのでなかなか楽しいです。
さ、またがんばってみよう。






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