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「レビュー」と「考察」の違いは何なのだろうかという話 その2

感想と批評の違い 〜"why"と"how"の壁 - ポンコツ山田.com
以前こんな記事を書いたが、他にはどんな風にこの差を表現できるか最近考えているので、そこらへんをぼちぼちと。


私は自分の書いている記事のほとんどをレビューとはみなしていない。それはカテゴリーで「雑記」と「レビュー」で分けていること、さらにその記事量を比較すれば一目瞭然だ。
「レビュー」で書いている記事はまさにレビュー的な記事であって、作品を読んでの感想や、あるいは人に薦める為の文章となっている。対して「雑記」では、作品内で使われている方法論や世界観、「物語」性、あるいは作者の他の作品や、他作家の作品間との関連性などについて言及している(なんと分類すればいいかよくわからない記事も、これで括られたりしているが)。つまりは作品に対する批評や考察(個人的には後者)をしているわけだ。
で、その両者の違いをなんと表現するのかだが、ここは一つ図像的な比喩を用いてみよう。


私は「レビュー」は塗り絵のようなものだと思う。白抜きで絵の輪郭だけが描かれていて、あとは各自で色をつけるあれだ。
この場合、地の白抜き絵となっているのは言及される作品だ。レビュワーは、そこに各人のセンスでもって色、つまり感想や推薦文を書いて作品を飾り立てていく。単調な色遣いに終始したりそぐわない色味を選んでしまえば、せっかくの地の絵の魅力が減殺され手に取る人も減ってしまうし、逆に肌理細やかな配色や、あるいは違った魅力が見えてくるような意表を突く(かつセンスのいい)彩色をすれば、作品に目を留める人は増えるだろう。
プレーンな絵(=先入観のない初見の作品)にどのようなデコレーションをしその存在感を際立たせるかが、レビュワーの腕にかかっているということだ。
その意味で、当然レビューにセンスがいる。絵から文章に話は戻るが、冗長な言葉遣いや抽象的な誉め言葉、何が魅力なのか伝わってこない曖昧な表現などでは、レビューの読み手の読書欲をそそらない。びびっと興味を引かせるようなとっかかりが、まずなければいけないのだ。
単純に、何をプッシュしたいのか、というのがボケているレビューは読書欲をそそらない。まずはレビュワーの中で「これがこの作品の魅力である」ということを言語化できていなければ始まらないのだ(逆説的に「今の自分にはこれを上手く表現する言葉が見つからない」というような説明をすることで魅力を伝えるという方法もあるが、それを連発すればレビュワーの語彙のなさを露呈する羽目になってしまう)。


さて、では「考察」は如何に表現できるかだが、簡単に言ってしまえば、「図形の中に補助線を引くこと」だと私は思う。
中学や高校の数学の授業で、図形問題に取り組んだ記憶は誰しもあるだろう。例えばこんな問題。
『三角形の面積』
数学に通暁していればもっとスマートな解法も思いつくのかもしれないが、受験で数学を使うことをあきらめざるを得なかった文系程度の知識で解こうと思えば、∠AからBCへ垂線を引き、BCとの交点をDとして、直角三角形ABDとACDを作って考えるのが常道ではないだろうか。
この問いでは、∠Aからの垂線という補助線を引くことで、ΔABCの中に直角三角形を二つ生み出した。これにより、三平方の定理を使う余地が生まれたのである。三角形の中に隠れていた二つの直角三角形を前景化させた。これが補助線の手柄だ。
作品に対する「考察」も同じように、作品内に隠れている概念や方法論を意識的に前景化させることが肝要になると思う。今まで読んでいて気づかなかったことに別の角度から光を当ててみる。それが「考察」の役目ではないだろうか。
あるいはまた別の比喩を使えば、

この絵の中から胎児が見えるように、木の枝や岩に沿って線を引くこと、と言ってもいいだろう。ただの寂しげな海辺の風景の中に胎児が隠れていることを、そのように指摘することで読み手に気づかせるのだ。
これはこれで、レビューとはまた違ったセンスが要求される。なによりまず「気づかなかったことに気づく」洞察力が必要だし、さらに、それを他の人にもわかるように言語化するには慎重な語彙選択が求められる。手垢にまみれた言葉をのんべんだらりと使うのでは、概念を前景化させることは難しい。かといって突飛な言葉、やたらと難しい言葉を使えばいいというわけではない。誤解の起こらなそうな言葉を、誤解の起こらなそうな言い回しで用いることで、今まで陰に隠れていた概念はようやく浮かび上がってくるのだ。
個人的に「批評」にはまた違った観念を抱いているのだけど、それをさらに書くと長くなってしまいそうなので、今日は割愛。




まあだいたいこんな感じの話。「レビュー」と「考察」の違いはなんとなくピンときていただけただろうか。無論これは、私の考える上での便宜的な差異であり、辞書的な違いが知りたければ各人で引いて欲しい。というか、辞書的な意味合いでは混同せんだろ、この二つは。






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