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「サナギさん」に見る、日本の漫画システムとカメラの移動

サナギさん 6 (少年チャンピオン・コミックス)

サナギさん 6 (少年チャンピオン・コミックス)

とよ田みのる先生は、「ラブロマ」4巻でこんなことを語っていました。

最近気づいたんですが 根岸さんは右向きの顔が多いです
なんでかっていうと 立ち位置が左の時が多いからです
そしてナゼその立ち位置かというと…
ボケとツッコミの役割に密接な関係があることがハンメーしたのです!!
通常の漫画では ヨコ方向では右から左に読みます
その場合ボケが左にいると2コマ必要 テンポ悪!!

しかしボケが右の場合、1コマでテンポよく突っこめるのです

ラブロマ 4巻 ライナーノーツより)

ラブロマ(4) (アフタヌーンKC)

ラブロマ(4) (アフタヌーンKC)

日本の漫画の読み方を前提とする、ボケとツッコミの役割と立ち位置の関係ですね。
ラブロマ」は普通の形式の漫画なので、どこでどう盛り上げてどこで落とすかは比較的自由度が高いです。ページの先頭に持ってこようが、真ん中だろうが最後だろうがそれは作者の裁量です。
ですが、4コマ漫画の場合だとどうでしょう。特に「サナギさん」のような、激しいリアクションではなく、主に言語センスや発想力でオチをつけるものの場合では。
そこらへんに注意して、ちょっくら「サナギさん」を読み返してみましょう。

定まらない二人の位置。



先にも言ったとおり、「サナギさん」は派手なアクションやツッコミで笑いをとる作品ではありません。言葉の面白さや想像力を刺激して笑いを誘うネタなので、絵の構成そのものにはあまり見栄えは要求されないのです。
ですが、そうなるとそれはそれで困ったことが起こります。やはり「サナギさん」特有の事態ではあるんですが、この作品の中でメインを張っているサナギさんとフユちゃんは、ボケとツッコミの役割がネタごとに入れ替わります。二人ともある種の天然なので(まあこの作品は天然ばっかですが)、どちらも平気でボケるしそこに容赦なくツッコムのです。さらに、そもそものネタの始まりもどちらが口火を切るか決まっておらず、サナギさんが話題をふることもあるし、逆もまた然りです。
すると何が起こるかというと、1コマ目の二人の立ち位置と4コマ目の二人の立ち位置の入れ替えを必要とするケースがあるんです。
もちろん、1コマ目と立ち位置を変える必要のないネタもあります。


サナギさん 6巻 p30 「甘いもの」)
これは1コマ目と4コマ目です。会話の口火を切るサナギさんが1コマ目で右側にいますが、4コマ目ではフユちゃんがツッコミ役のため、そのままサナギさんは右側で問題ありません。上のとよ田先生の言葉通り、ボケが右側/ツッコミが左側というわけです。
このネタでは、コマの中での二人の立ち位置は4コマ通して変化がありませんが、こういうパターンは「サナギさん」では実はかなり珍しく、たいていの場合にはカメラが反対側へ回ったり(=二人の立ち位置が反対になったり)、どちらか片方のアップが入ったりしてコマの流れに変化がつけられます。
その一例としてこちら。



(同書 p24 「つらら.4」1,3,4コマ)
これは1,3,4コマですが、3コマ目でフユちゃんのアップが出て、4コマ目では1コマ目と二人の位置関係が逆になっています。
一人のアップになるのは3コマめが多いのですが、それは起承転結の「転」にあたる部分で画面に変化をつけたいためでしょう(ちなみに次に多いのは2コマ目で、最後や最初のコマでなることはかなり少ないです)。

台詞以外の画面の違い。



上の画像を見てもらうとなんとなくわかるかと思いますが、「サナギさん」の中での基本的なキャラの位置関係は、コマの中で二人がだいたい均等な位置にいる感じです。で、そこからの動きがかなり少ない。特に最初の例のネタなんかは、二人はベンチからほとんど動きません。位置関係がそのままでもいいのなら問題ないんですが、全てのネタで口火を切る人間とボケ/ツッコミの役どころを固定するわけにもいかない。てことで、二つ目の例のようにオチでカメラが反対側に回ることがあるんですが、それもただ回るだけでは芸がない。芸がないというより、画面に飽きが来やすい。飽きが来やすいというか、台詞の発話者の特定に一瞬遅滞が生じかねない。じゃあどうするかということでの、どちらかのアップであったり、微妙なカメラアングルの変化、さらには背景の変化だと思うんです。



(同書 p73 「催眠術.3」1,3,4コマ)
3コマ目までは二人の立ち位置は同じですが、4コマ目では逆転しています。そして、その逆転をわかりやすくするために、後ろに効果線を足してコマの画面構成が変わったことを強調していると思うのです。もちろん効果線は第一義にはサナギさんの心理描写でしょう。ですが、ここでは同時に直前の普通の背景のコマとの違いを際立たせ、コマの転換を強く印象付ける意味もあるのではないでしょうか。
他にも、効果線ではなく、カメラの方向だけでなくアングルを少し大きめに変えることで画面に変化を出している例もあります。



(同書 p32 「甘いもの.5」1,3,4コマ)
3コマ目までは前方上方から写していたカメラが、最後のコマでは後方下方から見上げる形になっていますが、その結果として3コマ目まで左上にあった木が消えて、画面構成の変化がキャラ以外でも印象付けられています。ネタとしては直接必要がなく画面上のにぎやかしでしかない木ですが、カメラの移動という点から見ると、それのあるなしでけっこう印象が変わるはずです。

結び。



もっとキャラの動きが激しい作品なら、このようなことをあえて考えなくともカメラの移動にそれほど不自然はないでしょう。キャラの動作の小さい「サナギさん」だからこそ、あまり動かないカメラがいざ動く時にどのような配慮がなされているかが興味深いのです。そこらへんを深く考えずに画面構成をしたら、たぶん単調になるか、さもなくばわかりづらくなるかのどちらかになりかねないんじゃないかな、と。
単純だからこそ、気を配ることがあるってことですね。








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