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漫画の話です。

漫画の「主題」と「題材」

友人に「帯をギュッとね!」(河合克敏)を借りて読んだ。全30巻。借りて帰った日の深夜二時過ぎから読み始め、朝七時半までで26巻。そこから寝て、起きてからバイト前に一冊、帰ってから全巻読破。ま、アホですな。こらえることを知れと。
で、柔道漫画とういうことで弾みをつけて、また別の友人から「YAWARA」(浦沢直樹)を借りて読んだ。全29巻。これまた二日で読破。

同じ小学館、連載時期も六年かぶってるというこの二つの漫画。
両方とも傑作であることを前提として述べれば、「帯ギュ」は柔道漫画だけれど、「YAWARA」は柔道漫画ではないと思う。「帯ギュ」は、柔道を描いた、文字通りの柔道漫画でも、「YAWARA」は柔道をベースにした、人間模様を描いたドラマではないだろうか。

これは、二つの漫画を読み比べてみればわかる。特に柔道シーン。
端的に違いを言えば、「帯ギュ」はスポーツ中継の目線であり、「YAWARA」はドラマの目線なのだ。

基本的に「帯ギュ」では、重要な試合では、細かい動作の一つ一つを丹念に画にしている。ちょっとした足運びだとか、手さばきだとか、そういったものを実際に描いている。それは、言ってみれば、試合の内容にきちんと理屈をつけているということだ。つまりは、柔道の勝負を描こうとしている。

対して「YAWARA」は、実際の勝負の描写はかなり少ない。足の払い、体重移動、投げる瞬間、投げ飛ばした直後など、一瞬一瞬のカットを入れてはいるものの、勝負そのものの流れは寸断されている。つまりは、見栄えのするところ、美味しいところだけを効果的に画にしているのだ。だから、「帯ギュ」に比べて、「YAWARA」の試合描写はかなり少ない。一話の間に流れる時間は同じでも、一話の中で描写される情景の配分が大きく違うのだ。「YAWARA」では、試合の内容それ以上に、試合に伴う人間模様(選手でも、観客でも、あるいは試合を見ていなくても試合に関わった人の)を描き出すのに比重を大きく割り当てている。

これをして、スポーツ中継の目線と、ドラマの目線という違いで表わした。

もちろん「帯ギュ」でも人間模様は描かれている。でも、それは試合の前後でほとんどが前景化しており、試合の最中には、その勝負以外(というか柔道以外)の心理葛藤は描かれていない。

言い方を変えれば、「YAWARA」は柔道を題材にしていなくても「YAWARA」たりえただろうが(例えば空手や剣道などの他の武道。もちろんその場合には「YAWARA」というタイトルは使えないけれど)、「帯ギュ」は柔道をテーマにしていなければ「帯ギュ」たりえないだろう。
「YAWARA」のテーマは「自分の才能(性質)に振り回されそうになっている人間の葛藤」だが、「帯ギュ」は「柔道で強くなることを目指す高校生」だからだ。

実際のところ、この説明では「『帯ギュ』だって別に空手や剣道でもいいんじゃね?」という問いに的確な反論ができないのだが、それはやはり、柔道の勝負の描きこみ方の違い、という点を押すしかない。要は、作者がそれぞれの作品で、なにを書きたかったかということだと思う。

正直なところ、「帯ギュ」は漫画の構成という点では、「YAWARA」には一歩譲らざるを得ない。一つ一つの動作を細かく描写して行くということは、どうしてもストーリー展開やコマ割が冗長になりやすいという欠点を孕んでしまう。それがそこかしこで見えてしまうのは、構成上仕方のないところかもしれない。
あるいは、猪熊柔という登場人物内でも最強レベルの存在を描くためには、無駄なコマをカットして、その豪快な結果のインパクトでもって強さを示す必要があるのかもしれない(その点、24巻での体重別選手権の時の本阿弥さやかの静かな試合の描き方が好対照となっている。アップも少なく、コマも決して大きくない)。

結局のところ、この二作品を分けるのは、どちらを読んで柔道をやりたくなるかということなのかもしれない。それはまず間違いなく「帯ギュ」。これは、作者の技量云々ではなく、漫画の構成そのものの違いなのだろう。それが、柔道漫画と人間ドラマの違いなのだ。


以下蛇足の感想。

この頃の河合克敏はまだ人間の書き方が安定しないが(単純に作画の意味で。髪形を変えれば見分けがつかない登場人物多数)、それでもやたら女性陣が可愛かったりする。特に桜子と麻里ちゃんは、個人的にかなりくるものがある。そして、それと対照的に正ヒロインのないがしろのされ方は異常。

猪熊柔の可愛さは言わずもがな。谷亮子ヤワラちゃんと愛称されるのには殺意すら覚える。その点で、Wikiの「YAWARA!」の項の一番下、その他の記述は秀逸。
YAWARA!」で泣けるシーンは、なぜか滋悟郎じいちゃんがらみが多い。17巻の「意外な助言」「勝てぃ!」の話は白眉。
そして玉緒さんの可愛さはガチ。


どっちも面白い作品なんで読んでみてね。








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