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漫画の話です。

漫画

私たちの日々は強く楽しく軽やかに 『三拍子の娘』の話

母の四十九日が終わってすぐ、父は旅に出ると言った。ピアノを弾いて世界中を回るのだと。 私は言った。残された私たち姉妹はどうなるの、と。私は受験生だし、妹たちはまだ小学生なんだよ、と。 父は言った。大丈夫だよ、伯母さんにはもう話はつけてあるか…

『ハコヅメ 別章アンボックス』カナが警察官に求めたものと、またその先に求めたものの話

前回から少し空きましたが、あらためて『アンボックス』についての話。ひとまずのまとめとして、主役であるカナの話を。ハコヅメ~交番女子の逆襲~ 別章 アンボックス (モーニングコミックス)作者:泰三子講談社Amazon カナの始まり 物語の始まり この物語は…

美少女(30代男性)が行く世界危険なグルメ旅『鍋に弾丸を受けながら』の話

危険な場所にほど美味いものがある。世の中にはそんな信念を持ったイカレた人間がいます。 長年に亘る二次元の過剰摂取ですべての人間が美少女に見える。世の中にはそんな脳みそを持ったイカレた人間もいます。 不幸にも、あるいは幸運にもこの二つのいかれ…

『ハクメイとミコチ』10巻 世界が息をひそめる旅立ちの朝の話

昨日に引き続き、『ハクメイとミコチ』最新刊の感想。今日はハクメイの思い出回。ハクメイとミコチ 10巻 (HARTA COMIX)作者:樫木 祐人KADOKAWAAmazon ハクメイの思い出回は、今まで謎に包まれていたハクメイの昔の話を、帽子の修理をきっかけにミコチが聞く…

『ハクメイとミコチ』10巻 愉悦と虚脱のはざまで更ける夜と、触れられそうな比喩の話

年に一度のこの時期の楽しみ、『ハクメイとミコチ』の新刊。ハクメイとミコチ 10巻 (HARTA COMIX)作者:樫木 祐人KADOKAWAAmazon ハクメイが歌の練習をしたり、大工の引き抜きを受けたり、みんなで温泉に行ったり、ジャダが初めて港町にくりだしたり、帽子の…

『ハコヅメ 別章 アンボックス』個人を守り縛る立場の話

また『アンボックス』の話。ハコヅメ~交番女子の逆襲~ 別章 アンボックス (モーニングコミックス)作者:泰三子講談社Amazon 上司の存在のありがたさ 自分がDV事案としてかかわっていた人間が被害者となった事件。カナと同僚の益田は、世間からも同僚から…

『ハコヅメ 別章アンボックス』カナの欲した正義とマジョリティの話

7割コメディ3割シリアスくらいの按分で作品が構成されてる『ハコヅメ』。にもかかわらず、コメディ部をほとんどなくしてシリアスに極ブリしたのが『ハコヅメ 別章アンボックス』。 著者コメントでも、 『アンボックス』の題材は殺人事件で、楽しいことは何…

『チ。ー地球の運動についてー』「情報」と「知識」と「知恵」と「知性」の話

また『チ。』のお話。チ。―地球の運動について―(6) (ビッグコミックス)作者:魚豊小学館Amazon6巻から始まった第3章の重要人物ドゥラカ。早くに母を、そして一か月前に父を亡くした幼少期のドゥラカは、父の死以降、彼が亡くなった朝になると共同体の輪…

『チ。ー地球の運動についてー』シュミッツの対話、あるいは前提の共有と妥協点の模索、あるいは理性の話

昨年末に6巻が発売された『チ。』。チ。―地球の運動について―(6) (ビッグコミックス)作者:魚豊小学館Amazonオクジーとバデーニが処刑されてから25年。地動説の感動は途切れることなく、また新たな者の手に渡されました。 残されたのは、科学的な考察や…

俺マン2021の話

あけましておめでとうございます。昨年は末に駆け足でばばっと記事を書きましたが、今年はもうちょっと均して書いていきたいですね。 さて、年明け早々の毎年恒例、俺マンの話です。 ノミネートは10作品。以前にノミネートした作品はなるべく避けて、どう…

今から追いつけ! 5巻以内でおすすめの作品はこれだ!! その6『トカゲ爆発しろ』の話

なんとか滑り込みで宣言通りにその6まできました。今年を締めくくるのは、頭からっぽで読めるギャグ漫画です。トカゲ爆発しろ 1 (MFC)作者:okamuraKADOKAWAAmazon私立魔城学園。様々な種族が共存する「幻代」、ごく普通の高校であるそこにはエルフやリザー…

今から追いつけ! 5巻以内でおすすめの作品はこれだ!! その5『ダンジョンの中のひと』の話

その5です。今日は一風変わったと言いますか、一言で言い表すのが難しい面白さのファンタジーコメディ。ダンジョンの中のひと : 1 (webアクションコミックス)作者:双見酔双葉社Amazonダンジョンに消えた父を追って、深層へと一人挑み続けるシーフの少女・…

今から追いつけ! 5巻以内でおすすめの作品はこれだ!! その4『でこぼこ魔女の親子事情』の話

メリークリスマス!!! 気はすみました? ではその4です。今日はどたばたギャグ漫画。でこぼこ魔女の親子事情(1) (メテオCOMICS)作者:ピロヤフレックスコミックスAmazon昔々、とある森の中に一人の魔女が住んでいました。ある日、その魔女が森の中を歩いて…

今から追いつけ! 5巻以内でおすすめの作品はこれだ!! その3『メダリスト』の話

その3。 また前回と打って変わって、熱いスポーツもの。劣等感にさいなまれている人間が、それを乗り越えて自分の夢をつかみ取ろうとする、力強い物語です。メダリスト(1) (アフタヌーンコミックス)作者:つるまいかだ講談社Amazon経歴のスタートは早く、…

今から追いつけ! 5巻以内でおすすめの作品はこれだ!! その2『ブランチライン』の話

年末特別企画「今から追いつけ! 5巻以内でおすすめの作品はこれだ!!」その2です。 昨日はハードボイルド&アクションの歴史群像劇でしたが、今日はぐっと方向を変えて、抑制のきいた透明な心理描写が秀逸なこちら。ブランチライン(1)【電子限定特典…

今から追いつけ! 5巻以内でおすすめの作品はこれだ!! その1『東独にいた』の話

年末。今年も漫画を読みました。面白かったもの、テンション上がったもの、心落ち着くもの、今まで気にしていなかった心の部分に触ってくるもの、残念ながらいまいち合わなかったものといろいろありました。 せっかくなので、今年読んだ作品の内、まだあまり…

『ブルーピリオド』熟練度の向上とクリアになる世界の解像度の話

コミックDAYSに登録して以来、電書のアフタで最新刊分くらいから追い始めた『ブルーピリオド』、思い立って無料の1話を読んだら、その日のうちに本屋へ走ってました。ブルーピリオド(1) (アフタヌーンコミックス)作者:山口つばさ講談社Amazonチョイ…

『3月のライオン』心の毒を予防する「逃げなかった」記憶の話

"Fight or Flight." 「闘争」か「逃走」か。うまい日本語訳もあったもんですね。 ブルーハーツの「やるか逃げるか」も佳曲です。 だれしもあるであろう、逃げた記憶、あるいは逃げなかった記憶。 後者の逃げなかった記憶については、『3月のライオン』序盤…

女子高生はいつだって切って刺して撃ってぶっ●す『デストロ016』の話

横浜で凶悪な女子高生たちが殺しとイチャイチャに忙しいあの時代からもう少し前、やっぱり横浜には殺しとイチャイチャに忙しい女子高生がいた。その名は沙紀。今では立派な大人として殺しとイチャイチャに忙しい彼女にも、女子高生時代があったのだ。時代が…

現実の科学者も見ていた美と調和と神 『チ。』と『35の名著でたどる科学史』の話

初学者に優しい自然科学の本を読むのが好きなんですが、先日読んだこの本。35の名著でたどる科学史 科学者はいかに世界を綴ったか作者:小山 慶太丸善出版Amazon早稲田大学の文系学生相手に長年、自然科学概論の教鞭をとっていた著者が、近代から現代、16世…

『好きめが』藤近小梅の描く心の距離に悩む姿の話

ここに結婚式場を建てよう(挨拶)。好きな子がめがねを忘れた 8巻通常版 (デジタル版ガンガンコミックスJOKER)作者:藤近小梅スクウェア・エニックスAmazon8巻の発売された『好きめが』こと『好きな子がめがねを忘れた』。小村君も三重ちゃんも、お互いの親…

人の形は何のため 「よき」舞いを求めて踊る『ワールド イズ ダンシング』の話

今を時めく猿楽集団・観世座の座頭の息子として生まれた鬼夜叉。しかし彼には芸のよさがわからぬ。人の形は踊るための形などではないのではないか。そんな思いを捨てきれぬ。しかしある日、彼が偶然目にして白拍子の舞い。そこにはたしかに「よさ」があった…

少女はちんちんを探しにどこまでも『ミムムとシララ ドラゴンのちんちんを見に行こう』の話

魔術学園でいつも成績二番のシララは、いつも一番のミムムにライバル心を燃やしている。今日も今日とて張り出されたテスト結果を見て悔しさに身を撃ち震わせていたシララはだが。突然ミムムから話しかけられた。 「私とドラゴンのちんちんを見に行かない?」…

『3月のライオン』子供姿の零とスタートラインと、生きていいと思える「居場所」の話

ようやく新刊の発売された『3月のライオン』。約1年10か月ぶりか。そうか……3月のライオン 16 (ヤングアニマルコミックス)作者:羽海野チカ白泉社Amazon前半はひなとの零のアンニャモンニャで「あー零くんいけませんそれはいけませんよーあーいけませんい…

知の美しさと過去からの集積 『チ。』と『はじめアルゴリズム』の話

5巻が発売された『チ。』。チ。―地球の運動について―(5) (ビッグコミックス)作者:魚豊小学館Amazon地動説に文字通り命を賭けた人間たちが、また命を消し、そして次の誰かへと知をつないでいく。相変わらず、残酷さと感動が同居しています。 さて、『チ。…

『ワンダンス』カボの強さと弱さ、浮かぶ宇宙と踏みしめる大地の話

高校対抗ダンスバトルの個人戦が佳境に入った『ワンダンス』。ワンダンス(6) (アフタヌーンコミックス)作者:珈琲講談社Amazonワンダ、伊折、恩ちゃん、宇千、カベ、そしてカボ。それぞれがそれぞれのニュアンスを出して踊るバトルは、ビートを見せていく…

『アオアシ』サッカーとアドリブの、言語化の先の身体化の話

着々と読み進んでいる『アオアシ』。 現時点で21巻まで行ったんですが、読んでて色々考えが広がるところはあるのですが、中でも「これこれ!」となったのは12巻。読んでて膝を打ちました。アオアシ(12) (ビッグコミックス)作者:小林有吾小学館Amazonどこ…

『アオアシ』「つながる」ことの面白さ、気持ちよさの話

サンデーうぇぶりにて6巻まで解放されたのを機に、そこまで一気に読んだサッカー漫画の『アオアシ』。アオアシ(1) (ビッグコミックス)作者:小林有吾小学館Amazon実は以前、同じ作者の『ショート・ピース』を読んで面白かったので、試しにと1巻に手をだ…

『チ。―地球の運動について―』積み重なる知の価値の話

今回も『チ。』についての話。チ。―地球の運動について―(1) (ビッグコミックス)作者:魚豊小学館Amazon前回の記事では、理論の美しさの価値の話をしました。今回はまた別の価値として、タイトルの通り、積み重なる知の価値について書こうと思います。本作…

『チ。―地球の運動についてー』理論の「美しさ」の意味と価値の話

新刊の発売された、魚豊先生の『チ。ー地球の運動についてー』。先ごろにはマンガ大賞2021の第2位も受賞している、今ノリにノっている漫画の一つだと言えるでしょう。チ。―地球の運動について―【分冊版】 1 (ビッグコミックス)作者:魚豊小学館Amazon『…